イラク戦争と世界
第5部 米帝国の足元で ■1
ホワイトハウスに追及の手
2003.07.28 しんぶん「赤旗」より
「大統領が虚偽の口実で米国をイラクとの戦争に導いたことが明らかになれば大統領を弾劾する根拠になる」。来年の大統領選挙に出馬表明している民主党のボブ・グラハム上院議員は強調しました。
国民を欺いた疑惑
ブッシュ大統領が「イラクでの戦闘は終わった」と〝勝利〟宣言してから三カ月。戦争の最大の理由にした大量破壊兵器がみつかりません。そればかりか大統領がウソの情報を一般教書(施政方針演説)に盛り込んで国民を欺いた疑惑が広がり、ホワイトハウスを揺さぶっています。
ケネディ上院議員「たんなる言葉の問題ではない。戦争を正当化するため情報を政治化させ、事実を偽ったのではないかという問題なのだ。責任は大統領にある」 レビン上院議員「疑問の上に疑問が積み重なっている。矛盾が多すぎる。全面的で開かれた調査が必要だ」 民主党の有力上院議員である両氏はブッシュ大統領に、事態の説明を求める書簡を送りました。
米議会には、独立調査を求める市民のメールが続々と届いています。その数は二十二日現在で四十万を超えました。
「批判するものは次の問いに答える義務がある」。チェイニー米副大統領は二十四日の演説ですごみをきかせてのべました。「責任ある指導者なら、イラクの脅威を無視しえただろうか」 大統領の後見人を自任するチェイニー氏。ラムズフェルド国防長官とともに米国をイラク戦争に引きずり込んだ張本人といわれています。
副大統領は、米情報機関が昨年十月にとりまとめた「国家情報評価」(NIE)から三カ所を引用。「これらを知りながら、どうしてイラクの脅威をそのままにしておけただろうか」と語気を強めました。
ところが引用したのは、ホワイトハウスが十八日に公表した資料です。そこには「イラクがアフリカからウランを入手したとの情報は相当に疑わしい」との国務省情報部門の見解が明記されていました。副大統領は疑問に答えず、居直りの印象を与えました。
〝皆がかかわる〟
この間ブッシュ政権の説明はめまぐるしく変わりました。十一日に責任は中央情報局(CIA)にあるとテネットCIA長官が謝罪。その直後、情報が誤りだとの見方をCIAが昨年十月にホワイトハウスに伝えていたことが明るみに出ました。火の手はホワイトハウス高官に向かって広がりました。
「ライス大統領補佐官、ラムズフェルド国防長官、パウエル国務長官、チェイニー副大統領。皆がかかわっている。テネット氏に押し付けるのは無責任じゃないか」(ヘーゲル上院議員)。与党・共和党の議員からも声が上がりました。
二十二日。大統領の重要演説の吟味にあたる「もっとも地位の高い」高官が名乗り出ました。ウラン購入は疑わしいとの情報を受け取りながら、「責任を果たさなかった」。非を認めたのはハドリー大統領副補佐官でした。記者からはすかさず質問が飛びました。「ここまでくれば何が起きたのかについて大統領が国民に説明する必要があるのでは」。追及の手はブッシュ大統領本人を標的にして次第に狭められていきます。(ワシントンで浜谷浩司)(つづく)
派遣 働くルールを[ 6]二重三重の違法行為
2003.07.28 しんぶん「赤旗」より
前回紹介した岡山市の片桐久仁洋(33)さんは、一九九八年、日総工産に入社しました。
岡山大学を経済的理由で中退。日総工産に入る前に勤めていた造園業者は倒産。雇用保険にも入っていなかったため、失業給付もない状態でした。
実体のない請負
「すぐに働かなければ食べていけん」。就職雑誌で見つけた会社でした。
日総工産は、業務請負会社でした。本来は委託契約で、工場や生産ラインを丸ごと請け負います。請負業者は、職業安定法などで、その作業について労働者の指揮監督など財政・法律上のすべての責任を負います。
片桐さんは日総工産社員として、岡山積水工業に派遣されました。そこのラインで片桐さんを実際に指揮したのは、派遣元ではなく、派遣先の岡山積水工業でした。
こうしたやり方は、実体のない請負、つまり「偽装請負」と呼ばれる違法行為です。
しかも、片桐さんは、派遣元から岡山積水工業の子会社に派遣され、さらに岡山積水工業に派遣される「二重派遣」になっていました。これも違法行為です。
くわえて、当時、製造業への派遣は禁止されていました(六月の労働者派遣法改悪で製造業にも拡大されることに)。
まさに二重三重の違法です。
片桐さんが相談した職安は、派遣法違反として、派遣先の岡山積水工業が直接雇用するか、業務請負としての基準をみたすかの措置をとるよう指導しました。日総工産や岡山積水工業などは「改善」を約束しました。
ところが、とんでもない事態が起こりました。
その後、片桐さんは、派遣先からは「生産調整により仕事がなくなった」といわれ、派遣元からは「業務縮小」を理由に解雇されたのです。
これをまた職安に訴えると、「業務縮小による解雇だから民事不介入だ」などといいました。
「行政を信じて資料も提供し、告発をしてきたのに…。違法なことをやっていた会社はほとんど反省していない。こんなことがあっていいんですか」
直接雇用求める
いま、片桐さんは、岡山積水工業に直接雇用するよう、岡山地域労組の組合員として交渉しています。法に定められた派遣期間の上限である一年をこえて、三年以上も同社で働いてきたからです。派遣法では、片桐さんのように一年を超えて働く場合、厚生労働大臣が直接雇用を勧告できるようになっています。片桐さんはその勧告を申請しましたが、違法な派遣だったからという「理由」で認められませんでした。大臣の勧告例はこれまで一件もありません。
片桐さんはいいます。
「一生懸命働けばなんとかなると思ってきたが、こんなひどいことが野放しになっている社会の仕組みがわかって驚いた。同じ立場の労働者のためにも引き下がれない」(つづく)
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