適正審中間答申素案について
審議委員 本田正則
2009年2月6日
 まず、この中間答申素案の、冒頭に記されているように、「子どもたちの教育環境の向上という視点に立つ」ことは大前提です。
  また、今後、学校適地を見いだし、確保し、建設することはほとんど不可能と考えるべきです。
  したがって、安易に統合すべきではないし、仮に閉校となった学校跡地についても、一つには地域の防災拠点としても、二つには貴重なスポーツ・子どもの遊びの広場、冒険遊び場などとしても、三つにはまちづくりの上で重要な公開空地・空間としても活用し続けるなどしながら、いつでも学校用地としての再利用可能な状態で確保しておくことは考えておかなければなりません。

 その上で第一に、通学区域の学齢児童数が減り、『適正規模』や『当面存置規模』より小規模になったからといって、直ちにまた、絶対的に統合するという考え方に立たないことを明記すべきです。
  現在、日本は少子高齢化の傾向になっていますが、フランスや北欧の国々では、施策の充実などにより、出生率の低下傾向を脱し、児童数は増加、安定しています。日本でも施策充実が叫ばれており、増加安定に転じることも視野に入れておくことが必要です。
  また、北区の場合、子育て世帯の流出(転出超過)が大きいことが少子化に拍車をかけてきました。他区では、都心回帰現象や、住宅の大規模建設、大規模な開発行為などにより、統合した学校が大規模校になるような事態をさけるため、マンション建設を規制するところもありました。北区でも、「子育てするなら北区が一番」「教育先進区」となることを目指し、施策の充実を進めてきたことなどもあって、ここ数年は年少人口が復元しつつありました。残念ながら、昨年は、建設・不動産・開発の動向にかげりが出たこともあって、再び0歳児〜4歳児の人口が減りましたが、人口バランス回復のための施策の増強が求められているし、開発などに伴って大規模校にならないようにすることを考えると、統合を急がないことも大切です。
  従って、年少人口の減少が続いているから機械的に統合するということにならないようにしておくことを求めます。

 第二に、実際にその学校を選んで通学している子どもの数、すなわち学校規模が、「適正規模」や「当面存置規模」を下回るだけで、直ちに、機械的に統合するという考えに立たないよう、記述の仕方も含めて、改善すべきです。
  第5回審議会では、「全く指定校変更がなければ、それぞれの学校で一定数の規模が見込めるという数字はつかんでおります。少ない所でも30名程度はおりますので、そういった形での希望は確保できると思っておりますが、それに指定校変更が加わっている結果、資料2の記載になっているところでございます」という答弁もありました。
  第六回審議会で、会長が強く指摘されたように、通学区域の子どもや保護者のみなさんが、指定校変更や私学進学を選択しないで、積極的に指定校に就学するような学校作りを進めることこそ重要です。そのためには、学校ファミリーを前進させることだけでなく、小規模校や、変更の傾向の強い学校に対して、非常勤講師を手厚く配置するなど、具体的な支援の手だてを取るべきです。とりわけ、風評や、学校の抱える問題があって保護者が入学させることを忌避するような事態が起きている場合には、教育委員会の責任で人員配置を行うことも含め、学校、保護者、地域が協力して解決に取り組むことを最優先することは明記しておくべきです。

 第三に、「適正規模」「当面存置規模」の考え方についても、新しい考え方や情報も取り入れて見直すべきです。
  一つには、小規模校ならではの教育を実践し、それを望んで指定校変更する保護者もいます。たとえば滝野川第七小が、PTAや地域の人々も含めた学校の努力の中で、徒歩10分以内の豊島区から望んで入学するというお子さんもまったほどです。ところが、教育委員会の適正配置計画案の発表と、それまでも何回となく繰り返されてきた「滝七小に、学童がないのは統合されることになっているからだ」などの風評によって、極端に入学児童が減ってしまうという事態も起きました。昭和48年の文部相通達では、「学校規模を重視する余り無理な学校統合を行い、地域住民等との間に紛争を生じたり、通学上著しい困難を招いたりすることは避けなければならない」「小規模学校としての教育上の利点も考えられるので、総合的に判断した場合、なお小規模校として存置し充実するほうが好ましい場合もあることに留意すること」「通学距離及び通学時間の児童・生徒の心身に与える影響、児童・生徒の安全、学校の教育活動の実施への影響等を十分検討し、無理の内容に配慮すること」「学校統合を計画する場合には、学校の持つ地域的意義等をも考えて、十分に地域住民の理解と協力を得て行うようつとめること」が指摘され、平成17年の教育委員会のための市町村合併マニュアルでもこの方針を確認しています。答申素案でも、小規模校が存置される場合でも、19の自治会連合会、青少年地区委員会に1校は確保することとされています。しかしなお、関係者のみなさんの合意が得られない場合には、機械的に統合の対象とはしないこともよく確認しておく必要があります。
  ちなみに、通学距離の適正値基準を見ると、1958年の建築費の助成基準では小学校4q、1963年の学校施設基準規格調査会は徒歩通学で、都市部0.5q15分以下を掲げていますが、他には見あたりません。そこで、青少年年地区委員会に一つを確保するだけでなく、500mの範囲内に1校は確保するよう見直すよう提案します。
 
  二つには、「学校規模」の現状をよく見る必要があります。
  国際的に学校規模を見てみると、ユネスコ文化統計年鑑によれば、初等教育では、フランスが平均99人、以下フィンランド100、カナダ196、イタリア138(5年制)、ギリシャ99、スペイン150、タイ176と1学年当たり、16人〜30人程度です。マレーシア399、日本331、アメリカ322、ドイツ213(4年)など学校規模の大きな国々でも55人〜70人程度です。1学年1学級を問題にする必要はない状況です。
  また、北海道教育大学の須田康之教授が旭川、札幌、釧路などを対象にして行った一連の研究(たとえば「学校規模別に見た教育活動の実際」)では、学校生活意識などに着目すれば学校規模が小さいほど、教育効果がある(縮小の臨界点については未解明)としています。学級規模に着目した調査研究が多く、学校規模に着目した研究はあまりないようです。元千葉大学教育学部教授の三輪定宣氏によれば、世界保健機構WHOは100人以下の学校規模とすることが望ましいと指摘しています。
  しかも、資料とされている文科省の小規模校のメリット、デメリットも、現行制度の下でのものであり、学級編成基準や、教員配置が北欧諸国並みに手厚くなるなどの変化があれば、自ずと適正規模についての考え方も変わってきます。
 
  一方で、複式学級でも様々な努力で、問題なく教育することは可能ですが、大都市で、わざわざ複式学級になるようにする必要はないと考えます。2年連続10人未満となり、1学年が6人未満となれば複式学級となってしまいますから、連続する2学年が10人を下回る場合には、対処方法の検討を開始すべきと考えます。その際も、2年連続10人を切ったからただちに統合するというのではなく、学齢児童数の現状、それに対する入学児童数の現状などをよくみながら、地域の住民、保護者全体が関われる形で、通学区域の変更や、問題解決のための教職員配置など、対策をよく検討し、関係者の間での合意をつくることを前提とすべきです。

 第四に、指定校変更の実際やあり方についてです。
  一つには、同じ私立幼稚園に通っている友達が行く小学校に行かせたいという親の思いがあることが紹介されました。現在は、ライフステージにともなって、転居を繰り返すのは常識になっています。同じ田端に住んでいる保護者、親でも、実際にはつきあいも、共同して当たる事柄もない人にとっては、同じ幼稚園に通う、親どうしの関係や、職場や趣味の関係などの方が密接ですから、そうした子どもの友達、親同士が親しい関係を重視する考え方になってしまいます。そうではなくて、自然に、指定校を選べるようにするために、子ども自身の生活圏の中に、乳幼児の時から、一緒に遊んだりできる場を確保する。保護者も、一緒に遊んでいる子どもたちと一緒に遊べたり見守れて関係づくりができ、保護者同士が直接顔を合わせ、コミュニケーションがもてる場を確保する。そしてその方が、楽しく、有意義で有益で、必要だと感じられるような関係を作ることのできる、場をつくる施策が求められます。仕事や、親・保護者自身のもつ様々な関係よりも楽しく、重要だと思えるものにしなければなりませんが、それを教育委員会としても構築するのは、生涯学習の観点からも重要でしょう。そうした前向きの施策構築と展開を前提にして、はじめて「地域の子どもは地域で育てる、守る」という住民・保護者参加型の地域作り・学校作りが始まるのではないでしょうか。そのために、学校や学校跡地を活用することも大切だと考えます。
  二つには、二つの小学校区にまたがる自治会や自治会連合会では様々な難しい問題があることが指摘されました。これは裏返しとして、同じ自治会の遊び友達や幼稚園の友達が学区域が異なるので、指定校変更をするという問題が常に存在するということです。もともと問題を抱えている通学区域を基礎にした12ブロックでの適正配置検討となりますから、当然問題が顕在化します。通学区域自体の変更ということになれば、当該区域の関係者の参加なしに議論できないし、具体的に議論の場をつくらないと難しいという会長の意見はその通りだと思います。
  三つには、指定校変更の基準についてですが、これは様々な問題が起きた場合の対処の一手段として、指定校変更ができないと困る場合も出てきます。指定校が選ばれる学校づくり、地域づくりを教育委員会がしっかり取り組むこと、問題の解決には人員の緊急加配なども含めて対処することを前提としつつ、指定校変更のあり方について改めて検討すべきであると思います。
以上

初等教育の学校規模の国際比較
『ユネスコ文化統計年鑑1998』から三輪さん作成
国  名
学校規模
修学年限
日   本
1997
331
6
アメリカ
1994
322
6
イギリス
1991
188
6
イタリア
1996
138
5
カナダ
1996
196
6
ギリシャ
1996
99
6
スペイン
1996
150
6
タイ
1996
176
6
中国
1997
211
5
ドイツ
1996
213
4
マレーシア
1996
399
6
フィンランド
1996
100
6
フランス
1995
99
5
ペルー
1995
129
6
ロシア
1995
119
3
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