医療「改革」国民負担増/三重県山本かたしさん/疾病の人は受難者ですよ
「受益者」とはなんですか 日本医師会など医療三十八団体が昨年末、取り組んだ患者負担増に反対する署名は千七百万人分を超えました。日本の成人が約一億人ですから、かなりの数ではありますが、もっともっととらんといかんと思います。
今度の医療「改革」は主として高齢者の負担を増やすものです。財政の中で高齢化に伴う社会保障の自然増を圧縮する方向で議論が進められました。圧縮分はおもに医療費です。■経済効率だけ 社会保障の削減でしわ寄せを受けるのは、高齢者や疾病のある人で、いわば「弱者」です。ところが、削減をすすめる側は「受益者」と考えているようです。「受益者」とはなんですか。「受難者」ですよ。命や健康の保障をうるために保険料を支払ってきたのに、その保障が受けられないなんて、日本の福祉行政は下の下になり下がってしまいます。こんな政治を指導する総理大臣はどうかと思いますが…。
医療「改革」をすすめる規制改革・民間開放推進会議や財政制度等審議会などの主張にあるのは、経済性・効率性だけです。要するにゼニ勘定だけじゃないですか。彼らの中には、〓医者は患者にニコニコしながらサービスをして稼げ〓という意見もあると聞きます。私は理解できません。
私たち医師は、患者さんが診察室に入った瞬間から表情や態度を観察します。「おなかが痛い」という訴えであっても、腰をかばうしぐさで入ってくれば、腎臓結石等の疾患を疑ったりします。ですから、眼光だって鋭くなる。ニコニコなんぞしとられん。相手はカネもうけの対象じゃない。人格ある人間として診なくちゃいかんのです。■エゴではない そりゃ、カネもうけばかり考えている医者も中にはいます。だけど、多くの医師は国民の命を守るという正義感やヒューマニズムに基づいて医療に携わっているのです。
日本の医療は、かかりやすさや診療内容など世界のトップクラスと評されます。一方で、総医療費の国内総生産に対する比率は先進国中、十七位です。実は今でも経済性がいい。これ以上、公的保険の医療給付を削ったら、トップの医療を保てないばかりか、患者・国民の命や健康に大きな影響がでるでしょう。
たとえば診察中、会計窓口のほうから患者さんとのやりとりが聞こえてくると、こう考えることがあります。「負担額が多かったかなぁ。次回の検査はやめざるを得んか。必要なんだけどなぁ」と。結局、医療費削減、患者負担増は、医療の質を落としかねない。
私たちの主張は患者・国民のためであり、医者のエゴではないのです。
聞き手・海老名広信 写 真・山形 将史 やまもと・かたし 1928年生まれ。三重県立医学専門学校卒業。三重県立医科大学、京都大学医局などを経て77年、松阪市内に山本内科開設。2002年から04年まで日本医師会理事。02年から現職 |