(「しんぶん赤旗」日刊7月27日付より)
小泉「改革」のつめ跡深く
“生活基盤まで奪った”
自民党総裁選に向けて「ポスト小泉」候補たちが「『勝ち組』『負け組』を固定化する社会はいけない」(安倍晋三官房長官)と格差問題を口にしています。それは国民の実態、叫びにこたえるものになるのでしょうか。(中祖寅一)
アンケートに住民の悲鳴 いま、全国各地で日本共産党の地区委員会や地方議員団が実施している住民アンケートに“激変”がおきています。
四年前に比べ約五倍の二千百人が回答した青森市では、「月々四万円の国民年金では生活できません。方法を教えてください。助けてください」(七十七歳の男性)など痛切な声が寄せられています。
東京・北区議団の「区政アンケート」には千七百通を超える回答がありました。三歳と二歳の子を育てる女性(21)は、夫がリストラされたもとでの家庭の実情を記入して、党支部の人たちの訪問を待っていました。
「私も働かなきゃと思い、保育園の申し込みをしましたが、仕事をしていないからと入園を断られました。納得いきません。保育園が決まらないと、仕事も決まらないと思うんです」 この女性は、託児所つきの乳飲料販売店に勤めましたが、給料は歩合制。「頑張っても、お客さんが増えないと収入があがらない。私たちに貯金もありません」 各地のアンケートから浮かび上がるのは、雇用の破壊、社会保障の切り捨て、増税のもとで低所得者がいっそう苦しめられるという非情な政治の実態です。
「なぜ」分析なし
「競争がおこなわれれば、勝つ人と負ける人が出る。構造改革が進んだ結果、格差があらわれてきたのは、ある意味で自然なことであろう」 安倍氏は二十日出版した自著で格差拡大を「競争の結果」と当然視しています。それでも格差問題をとりあげざるをえないのは、ライブドア事件や村上ファンド事件など「構造改革」の名で進められた規制緩和万能路線の害悪がだれの目にも明らかになってきたからです。
政府は、安倍氏を議長に「再チャレンジ推進会議」を発足させ、新卒以外の採用拡大や正社員と非正規社員の均等処遇、倒産した経営者への融資などを打ち出しました。しかし、なぜ非正規社員が増えたのか、倒産せざるをえなかったのかという分析は一切ありません。
民主党を含め「構造改革」を支持してきた側では、格差問題は「構造改革」の「光」に対する「影」ととらえられています。
「支配層は自分たちの利益の増加を『光』に見せたい。プラスに見せて『能力』が高まったからだといいたい」。こう指摘するのは、千葉大学の渋谷望助教授(社会学)です。
「『光』--つまり今日の企業の膨大な利益は、法人税を引き下げ、社会保障と賃金をカットし、雇用を大規模に非正規の拡大方向に調整した結果ではないか。それを『光』だというのは良いものに見せるレトリック(修辞)に過ぎない」大企業には利益 「就労の能力と意欲のある人に少なくとも生活を維持できるだけの雇用を保障すること。生活保護を受けなくても生活できるようにすることは、政治の課題だと思います」 こう語るのは弁護士の川井理砂子さんです。川井さんは二〇〇〇年に埼玉で弁護士登録。一般の民事・刑事事件のほか、労働事件、サラ金をめぐる多重債務整理などに取り組んできました。
日本弁護士連合会が六月三十日、七月一日を中心に全国規模で「生活保護・電話110番」を実施。埼玉弁護士会でも三月に続いて二度目の「110番」を行い、前回の二倍近い約六十件の相談がありました。
中心となって取り組んだ川井さんは、電話をかけてきた人々の窮状を想像して胸に迫るものがあったといいます。小泉政権の五年は川井さんの弁護士活動とほぼ重なります。
「二〇〇〇年当時も多重債務整理の仕事はありましたが、そのころは、借金をきれいにしてあげればたいてい何とかなりました。今は、借金を整理しても生活していくための基本的収入、生活の基盤がない。そういうケースがすごく目立ちます」と川井さん。
国民の所得が減少し、格差と貧困が深刻な形で広がる一方で、財界・大企業は史上空前の利益をあげています。トヨタ自動車は今年三月の連結決算で純利益は一兆円、大手銀行は六グループで三兆円にのぼります。
『あなたの知らないトヨタ』(学習の友社)の著者、伊藤欽次氏は、トヨタの一兆円を超す利益の背景に小泉「構造改革」の推進があったと指摘します。
「トヨタ製品の原価の80%を占める材料と部品。残りの20%である直接働く労働者の費用と諸経費。そのいずれの分野でも『原価低減』を目標に、人減らし、非正規への置き換えなどのリストラが大規模に進められてきた。これを支援してきたのが労働法制の規制緩和であり、この数年間の利益の拡大は、『規制緩和』という政治的支援によるところが大きい」 「光」と言われる大企業の利益の中身は、大多数の国民の犠牲の上に成り立ったもので、国民にとっての「光」などでは決してありません。
渋谷助教授は「『勝ち組』といわれる人たちが勝ち残ったのは『能力』によるものなのか。実は、コスト削減の圧力の中で特定の派閥への忠誠心のようなものが試されて、リストラされる人と残る人が選別されたのではないか。そこでは人間的な関係におけるモラルが切り捨てられてきた」とも指摘します。 |