のぼる 小林多喜二の『蟹工船』が売れているんだってね。
陽子 若者にすごいらしいね。
のぼる 新潮文庫の『蟹工船』は今週あらたに五万部増刷を決めたそうだ。この二カ月で合計二十四万部だよ。
「それって蟹工」
陽子 戦前のプロレタリア文学全盛時代に発表されて大評判を呼んだ。その時に売れた単行本は弾圧の目をくぐりぬけて半年で三万五千部も売れた。
のぼる 今の広がりも、国家権力の妨害がないとはいえ、驚きだ。おそらく『蟹工船』の歴史の上でも最大のブームだね。
陽子 蟹工船は北洋でカニを捕って船上で缶詰にした船。四百人近くが乗って、一度漁に出ると半年近く戻らなかった。小説は、船上での過酷な労働と虐待から、労働者がついにストライキに立ちあがるまでを描いているわ。それがいまの若者に受けるなんて想定外ね。
のぼる いまの派遣やフリーターの若者が『蟹工船』と同様の劣悪な労働条件におかれているということだよ。日雇い派遣で働く若者が悲惨な待遇を「それって蟹工じゃん」と言い合っているそうだ。
陽子 今年あった『蟹工船』青年読書エッセーコンテストも予想を上回る百通を超す応募があったそうよ。「『蟹工船』で登場する労働者たちは、私の兄弟のようにすら感じる身近な存在だ」と書いた人もいる。
多喜二作品の力
のぼる テレビで派遣社員の青年が『蟹工船』を読んで「共感を持てた」と言っていた。「自分で行動を起こすことが正しいことだと学んだ」と言っていたけど、そんなことを訴える小説はなかなかないよ。
陽子 小林多喜二は悲惨な貧困を描くことから出発して、貧困を生み出す社会のあり方を根本的に変えるたたかいを描く方向にすすんだの。自分も当時非合法の日本共産党に入党し、二十九歳で特高警察の拷問で虐殺された。だけど、多喜二の作品は不滅ね。
のぼる 今年は没後七十五周年だった。戦前ともに活動した手塚英孝さんの書いた伝記『小林多喜二』もあるし、もっと多喜二の生涯も知りたくなったよ。
08年6月4日(水) 「しんぶん赤旗」より
おい 地獄さ行(え)ぐんだで--小説を読まれた方がほとんどと思いますが「まんがで読む蟹工船」も人気です。
紹介させていただいたのは、イーストプレスの文庫版です。 |