しんぶん「赤旗」2009年1月8日付
昨年12月に亡くなった加藤周一さんは、「九条の会」は、憲法を変えさせないということだけでなく、「憲法を生かす」という長丁場の課題に取り組もうと言われました。自衛隊海外派兵の恒久法による九条の掘り崩しに反対することや、生活擁護のたたかいは、そのことにつながると思います。
例えば、トヨタの町の「九条の会」であれば、派遣社員の首切りの問題を、いやでもとりあげなければならないのではないでしょうか。「九条の会」の旗を掲げながら、派遣社員の首切りに反対することになります。でもこれは、「九条の会」が変わるということではなく、事態が深刻な方向に進んでいくのだから、護憲の立場からそれに対応できなければならないということですね。
社会保障費の2千2百億円の削減、後期高齢者医療など、政府・与党は、福祉国家という建前などかなぐり捨ててきました。
保険証をもたない子どもたちが3万人以上も出ています。派遣社員をはじめ大量解雇の嵐が吹いて、まさかというような人たちまでがホームレスに落ち込んでいます。
いまその一つ一つに、これは憲法違反だと言っていかなければならない。生活擁護を掲げ、生活擁護のためには憲法二五条が役立つということを言っていくべきだと思います。これは「九条の会」の呼びかけ人が議論して到達した結論ではなく、私の意見です。
「九条の会」に限らず、自分たちが生きている間により良い生活を実現させようと、市民レベルでいろいろな名前の「会」ができています。
今年は、広がった「九条の会」や多くの自発的な「会」が、手を結び合って、本当に弱体化した日本のひどい政治を、もっとしゃんとさせていく力になるのだろうと思います。
そこでは、九条擁護が共通の一致点となっていくのではないかと思います。ものすごい世界経済不況の中で、二五条は大変大きな意味を持ってきていますが、生存権を守る最大前提として九条があるという意味で、九条と二五条は不可分の関係にあると思います。
本当にいまみんなが大変な状況にあるけれど、希望というものは空から降ってくるものではない。自分の中で生み、自分の中で育てていくのが希望だと思うのです。その希望の実現のためには、何もしないでいるのではなく、たとえ半歩でも前へ出る気持ちが必要で、それが勇気です。
(3面につづく) 聞き手 中祖寅一 写 真 橋爪拓治
さわち・ひさえ 1930年、東京生まれ。作家。「九条の会」呼びかけ人の一人。4歳で旧満州に渡り、敗戦後帰国。早稲田大学卒。中央公論社の編集者を経て、72年、『妻たちの二・二六事件』で作家として出発。『記録ミッドウェー海戦』『滄海(うみ)よ眠れ』『希望と勇気、この一つのもの-私のたどった戦後史』(近著)など著作多数。 |