見えないDV いま私たちにできること

 北区のスペースゆう(男女共同参画活動拠点)で行われたR3年度DV理解基礎講座に参加しました。今年度の講師は戒能民江(お茶の水女子大学名誉教授)さんです。

<はじめに>

 戒能講師は、DV問題に20~30年かかわってきたと自己紹介。1970年代後半、英国に行く機会がありDV法(1976年制定)にはじめてふれた。英国では1971年、世界ではじめてシェルターが設置され(最初は離婚困りごと相談所だった)その5年後に法的根拠をもって受け入れる場所をつくろうの運動に政治がこたえ、DV法がつくられたと報告。

 日本でDV法が制定されたのは2001年、英国に遅れること30年。当初は銃で撃たれることはないし、暴力的な社会ではないと言われ、DVの理解や法整備がすすまなかったが、1992年、日本ではじめてDVの全国実態アンケート調査を実施し800通が集まり、その結果を英訳して、1995年の北京女性会議に報告。DVは社会の隅っこに追いやられていたが、とても大事な問題との国際的な外圧も受けて、2001年、女性議員を中心に超党派による議員立法で、DV防止法が制定された。

 制定から20年が経過し、現在、内閣府でDV防止法改正審議会が開かれている。皆さんもぜひ、法改正に向け、声をあげていってほしいと冒頭、よびかけられました。以下、お話の内容要旨を紹介します。

<DVの現状>

 コロナ禍、DVの相談件数は1.6倍に増加(2019年度11万9276件、2020年度19万30件)この数字は、全国のDVセンターに加え、DV相談+(プラス)と言われる民間団体に委託した相談(電話やSNSで24時間相談ができる)も含んだもの。現在でも、毎月4000~5000件の相談を受けている。

 その内容は、身体的DV(殴る、蹴る、髪を引っ張るなど)30.2%であるが、精神的DVが64%と最も多く、経済的DV(お金を渡さない)、性的DV6.4%と分類されるが、重要なことは暴力は複合的であり、重複している

また、子どもがいる場合は、DVと一体に虐待もおき、家庭がファミリーバイオレンスの状況となる。

<見えにくい暴力ーDV>

 更に、DVの本質は、親密な関係で、暴力によって相手を支配・コントロールすること。

 暴力の支配の中核にあるのは、精神的暴力であり、日常的に継続的に暴力が繰り返され、家庭という密室・閉鎖的な中で被害者は沈黙し、孤立してしまう。命の危険を感じる人は5人に1人。誰にも相談できない人が4割も。家庭内のこと個人的なこととして、警察や国家が介入することではないとされてきたが、その中で人の命が奪われている。

 DVは、見えにくい暴力、隠された暴力。被害者の自尊心を傷つけ人間らしさを奪う人権侵害。外から第3者が介入しないと、解決しない問題である。

<理解されにくいDVとその影響>

 この間、相次いだ児童虐待死事件(2018年目黒区事件、2019年野田市事件)とDVについて。

 両方の事件も、虐待されていた女児への直接の加害者は実父であるが、母親に対する攻めの声が強く出されている。しかし、その母親も一方ではDV被害者、支配的な夫の意向に抗うのは困難な状況であった。

 児童虐待とDVは一体として起きることが多い。加害者による暴力を使っての家族の支配。背景に性差別社会や暴力を容認する社会の課題がある。

<DV法20年ーDV理解は深まったのか>

(1)身体的DV中心から、複合的なDVが見えてきた(心理的に攻撃される精神的DV・経済的DV・性的DV)とりわけ精神的DVは中核にあり、見えにくい、証拠がない、介入しにくいが、うつやPTSDなどダメージが大きい。日本の現行法では一時保護の対象にはなるが、「殺すぞ」との脅迫でないと保護命令の対象とならない。法改正の課題。

 経済的DVは、コロナ禍でいっそう顕在化。その背景に、男女の賃金格差。女性の非正規雇用や失業者の多さ。経済的不安で逃げられない。家庭内貧困。

 性的DV、日本の刑法は、夫の強姦は性犯罪として明記されていない。刑法の改正議論で、ようやく、配偶者間の強姦も強姦として明記の方向。性的強要などの性的DVは、性的自己決定権の侵害。予期せぬ妊娠や生命の危険につながる身体的暴力と同等に扱うべき。

 24時間ホットラインでも、子どもの性虐待被害が語られることが多い。その時は、わからなかったが、実は、、と語る内容に、実父、兄弟、義父からの性虐待がある。

(2)ハードルが高い相談・支援

 相談に行かないとはじまらないが、相談に行くこと自体がハードルがある。ようやく相談しても、2次被害もある(何ですぐにこなかったのか。あなたにも非があるのでは)相談して聞いてもらうだけでなく、どうすればよいのか、支援につなげることが必要。

(3)DV法改正にむけて

 現在、内閣府女性に対する暴力専門調査会「DV法見直しWG」で検討が行われている。

 主な課題は、・精神的暴力や性的暴力への拡大・緊急保護命令の導入(現在は2週間近くかかる、すぐ出せるように)・加害者対策(日本ではとても遅れている、ようやくモデル的な取り組みが始まったばかり)・児童虐待対応とDV対応の連携(ケース会議を一緒に開催する、児相と女性・DV相談の連携のしくみづくり)・逃げない、逃げられないDV被害者への支援(実際は逃げられる人は少ない。加害者といても危険でない状況つくる)

<まとめ>

最後に、私たちにできることとして、

DVの実態や影響についての理解を深めていくこと。

地域の実情を知り、相談窓口、支援機関、社会資源の充実を行政に働きかけること。

気軽に立ち寄れる居場所づくり(地域には迷っている人ばかり。若い女性への支援団体では、バスカフェなど行い、ごはんや洋服、医療品の提供も。国立市でも自治体とし行っている。)

民間支援団体への協力と支援(民間はお金がない。高齢化もしている。寄付や応援・支援が必要)

・DVも#Metoo#Wetooへ

・日本社会の性差別に関心を持ち、政治へ働きかける(日本では、女・こどもと言われる。特に、大人の女は自分で何とかすればいい。極端な時は、身体を売ればいいとの考えがまだまだある)

・ひとりひとりの女性や子どもの「人間の尊厳」を守る社会へ

 戒能講師のお話は、一言一言、胸に深く染み入る内容で、とても大切なことが話されているとの思いで、聞き洩らさないように集中して耳を傾けました。DVの本質は、暴力による支配とコントロールとの指摘は、人と人との関係において、また、社会における個人の尊重、民主主義的な社会のあり方としても、深く、大きく問われる内容ではないかと感じました。

 子ども時代から、信頼にもとづく人と人との良好な関係を築くこと、そのための人間理解やコミュニケーションスキルの獲得など、国際水準でのセクシャリティ教育の重要性も痛感します。

 DV法や刑法の改正、また、女性の自立を支援する新法の制定など推進したい。身近な自治体においても相談や支援体制の充実を進めたいと改めて感じました。

 

 

 

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