権利としての介護・福祉を実現するためにー自治体学校分科会

自治体学校2日目の分科会で、南山大学の豊島明子教授より「権利としての介護、福祉を実現するための課題は何か。社会保障における行政の役割」について講義を受けました。以下、要旨。

テーマの1つは、介護保険について

2000年に始まった介護保険制度において、措置から契約へと福祉のパラダイム転換がもたらされ、行政が担ってきた相談支援、サービス提供主体も民間へ。

厚労省の「介護サービス施設・事業所調査」によると「居宅介護支援事業所」「訪問介護」「通所介護」は、営利法人の占める割合が増えてきている。(2000年から2021年で、順に、18.1%から52.6%、30.3%から70.3%、4.5%から53.3%)。一方、地方自治体・社会福祉法人は大きく減少。(11.9%から0.7%・35%から23.7%、6.6%から0.2%・43.2%から15.7%、22.2%から0.3%・66%から35.3%)

介護予防支援事業所は、地方自治体と社会福祉法人が、2021年でも21.3%、56.6%、地域包括支援センターは、2022年で直営20%、委託80%

介護保険は、制度としての持続可能性が言われ、経済的な負担増(保険料の増加、当初2000円代が今6000円代へ、利用料負担も2割・3割も)、サービスの利用制限(生活援助の軽視ー時間が短く、軽度者外し、介護従事者の処遇(労働条件の悪さー移動や待機時間、記録作成時間が労働時間としてカウントされない、キャンセル時の補償なし。担い手不足と高齢化ーヘルパーの4割は60歳以上、平均年齢55歳、有効求人倍率15倍)など深刻な課題を抱えている。

今後予想される制度改悪について、2022年12月20日、社会保障審議会介護保険部会「介護保険制度の見直しに関する意見」の中で、

・要介護1・2を保険給付から外し、「介護予防・日常生活支援総合事業」に移す(実施するとデイサービス利用者の67%、訪問介護利用者で要介護1・2の6割の人が生活援助を使えなくなる)

・ケアプランの有料化(ケアプラン作成はソーシャルワークであり、利用者が負担するものではない)

・利用者負担2割の対象拡大(現状は1割負担91%を倍増)などが提案されている。

「骨太の方針2023」2023年6月16日では、介護保険料の上昇を抑えるため、利用者負担の一定以上所得の範囲の取り扱いなど、2024年から始まる次期の介護保険事業計画に向けて、年末までに結論を得るとしている。

介護保険制度の改悪を許さないと共に、行政の老人福祉法における措置権限の行使を活用し、必要な福祉サービスを実施する必要があるとの提起がありました。

テーマの2つ目は、介護のDXについて

介護保険制度の見直しに関する意見(2022年12月20日)では、課題として①介護情報利活用の推進(医療・介護全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラット・フォームを創設」「具体的な介護情報基盤整備のあり方を検討」や、②科学的介護の推進(エビデンスにもとづく介護として、R3年度からLIFEの運用開始。医療の標準化同様、介護の標準化をすすめ、重症化防止のため給付を抑えるねらいがある。

しかしながら、科学的介護の一方で、不寛容なケアが生まれるのではないか。データやエビデンス重視により、みるべきもの、みたいものしかみえなくなるのではないか。例えば、トイレ介助、本人が行きたいと言った時、まだ尿がたまる時間ではないので行かないとなるのか?

ケア労働は、対象の状態をまず受けとめて人間関係の中で行われるべきものでは。

生活も経済的自立だけではない。自尊感情をとりもどす社会的、生活的自立、介護を必要としながら自立をめざす。介護が必要ないということではない。ケアや介護の専門性、本質が問われているのではないかーとの問いかけがありました。

テーマの3つめは、「地域共生社会」政策をどうみるか。

2020年社会福祉法改正で、「重層的支援体制整備事業」が区市町村の努力義務となり、対象者の属性を問わない相談支援、多様な参加支援、地域づくりに向けた支援を一体的に行うとされた。

例えば、地域社会における孤立、孤独を解消するために、つながりをとりもどしていく。どうつながっていくのか。①断らない(属性を問わない)相談支援、②参加支援(社会とのつながりづくり)③地域づくりに向けた支援(住民同士が交流できる場、居場所の整備)④アウトリーチ(待ちではなく対象者を早期に把握)や伴走型の支援(本人に同行し、関係機関に赴き、ニーズを適切に代弁しながら継続的にかかわる)⑤他機関協働による支援(相談支援機関への支援、助言、困難ケースの調整)⑥支援プランの作成などの6つの事業があげられている。

とりわけ、つながりをつくる、居場所づくりなどが重視されているが、その後、どうしていくのか?

社会福祉を支える人権として、「生存権(憲法25条)」があり、最後は福祉につなげていく。市町村の公的責任、措置権限としての生存権保障を具体化していく役割が問われるのではないかー

講義をお聞きし、介護をはじめとするケアや誰もが文化的で最低限の生活を営む権利(生存権)を保障するために、これまで市場優先、受益者負担の考え方で失われてきた公共をとりもどしていくことが必要だと改めて感じました。

そのためには、介護に携わるヘルパーさんなど働く人の労働、賃金を抜本的に引き上げ、介護保険料、利用料の負担を軽減する。これまで、家族責任、自己責任とされてきた子どもの育ちや教育費の負担、子育て・若者支援に、人権や個人の尊重という視点で、財政出動をはかり社会的制度を厚くすることはもはやまったなしの課題だと痛感しました。

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