「包括的性教育」と人権ー議会と自治体に掲載

 少し前になりますが、日本共産党中央委員会が発行している「議会と自治体」6月号で「包括的性教育」と人権について特集があり、そのテーマで、私自身、また党区議団としても取り組んできたことをまとめたレポートが、掲載となりました。

 日本は、人権後進国と指摘されています。男尊女卑を基盤にしている「家父長制」、男女の性的役割分業や差別意識が、未だにひとりひとりの人生や多様で自由な生き方を縛っているのではないでしょうか。

 自分自身も、そして誰もが、そのプレッシャーの中で、悩み、葛藤し、時に性暴力や性被害、虐待、DVなど暴力・支配に直面し、深い傷つきや痛みを伴うことになる。そのダメージははかりしれず、回復への道も容易なことではありません。

 自身の性を豊かに認識し、ひとりひとりが互いの信頼関係を築き、安全、安心の中で、ひとりひとりの力が発揮される。そんな優しい社会、個人が大切に、尊重される社会をめざしたい。

 包括的性教育は、まさにその土台となるものであるが、日本においてはタブー視され、自己責任、家族責任に放置され、むしろ子どもや女性などの人権、性までをも儲けの対象にする性産業によって歪められ、軽視されてきた分野ではないか。そしてよりにもよって、政治権力がその性産業の規制や、性教育の充実を阻んできたともいえる。

 家庭でも、地域でも、学校でも、社会のあらゆる場面で、科学と人権にもとづいた性教育、性の学びを保障することを求め、取り組み続けたい。

 以下、議会と自治体2022年6月号に掲載したレポート(2022年4月記述)

「包括的性教育」と人権の取り組みについて(議会と自治体2022年6月号掲載

東京都北区議会議員 山崎たい子

私は初めて子どもを出産した時、次の世代によりより良い社会を手渡したいと、議員に挑戦することを決意し、多くの方の理解と支援の中、議会に送って頂きました。その後、任期中に3人の子どもを出産し、子育てしながら活動してきました。

初めて区議会で性教育をとりあげたのは2003年です。性教育は人権教育であり充実してほしいとの観点から、毎年、学校で行われていた子どもたちへの性にかかわる授業が、「今年はまだされてないね」との保護者の声を紹介し、教育委員会に何か変化があったのかと尋ねました。同年は、石原都知事のもと、子ども本意に積み重ねてきた都立七尾養護学校の性教育に対し、一部の都議や東京都から不当な介入があった年です。

性の問題は、安全・安心に生きることを保障するものなのに、政治的に圧力をかけて、それを奪おうとする力があることに強い憤りを感じました。

いま、ロシアのウクライナ侵略でも、女性へのレイプや暴力が行われているとの報道があります。コロナ禍は女性のパンデミックと指摘されるように、女性へのDVや虐待、性的搾取、生活困窮、自殺が増加しています。

その根底には、暴力や力による支配、ジェンダー不平等の歴史的、社会的な差別構造があり、とりわけ、日本においては、ジェンダーバイアス、アンコンシャス・バイアスと呼ばれる、「男だから」「女だから」との決めつけや押しつけ、セクハラや女性への暴力を禁止する法律の未整備、アダルトビデオなど歪んだ性情報があふれる環境、買春産業の容認、性教育が著しく遅れている現状があると認識しています。

区民からの相談も深刻化

2018年からは毎年、セクハラや性暴力をなくし、包括的性教育の取り組みを推進するよう質問を重ねてきました。その年は世界的な#MeToo運動の中、日本でも事務次官によるセクハラ疑惑に対し、「#MeToo #WithYoセクハラ被害者バッシングを許さない!4、23緊急院内集会」が開催されたり(私も参加)、足立区で先進的に取り組まれてきた性教育の実践に、再び都議会議員からの圧力がかかったりした年でもあります(これは見事にはね返した!)

寄せられる区民からの相談でも、シングル家庭やメンタル不調を抱えた中高年女性の相談の増加、10代後半の女性からDVや虐待の相談が相次ぎ、保育士さんからも、子ども達のセクシャルな遊びや対応に苦慮している話を伺うなど、自分自身もどう対応してゆけば良いかと悩み、女性支援の現場の皆さんや、包括的性教育を推進している「人間と性 教育研究協議会」(同会発行の「季刊セクシュアリティ」も勉強になります)などの研修に積極的に足を運び、学びを深める時間をたくさん持ってきました。

北区を含む衆院東京12区の候補者として活動してきた池内さおり元衆議院議員とともに、若年女性の支援の現場に足を運び、女性の支援団体の皆さんと交流し、刺激を受けたことも貴重な体験です。

議会での質問と前進した課題

こうした学びをいかして、具体的に求めてきた質問内容の要旨は、以下の点です。

①セクハラや性暴力(痴漢を含む)についての啓発、被害者の相談、救済の支援の具体化、加害者の罰則を盛り込んだ禁止規定の法整備や刑法改正。

②人と人のより良い関係を学ぶ、デートDV予防教育のとりくみ。

③JkビジネスやAV出演強要の被害防止、若年女性のLINE相談やアウトリーチ支援、子どもシェルターなど、民間団体と連携した取り組み。

④売春防止法から脱却し、女性の人権を保障し、中・長期にも福祉の支援をすすめる新法の制定。

⑤妊娠、出産、産後ケアの充実や、避妊、中絶における女性の自己決定の保障などリプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康と権利)。

⑥国際スタンダードである「セクシュアリティ教育ガイダンス」を生かし、乳幼児期からすべての人に性の学びを保障し、性の自己決定や行動、対等な人間関係を築く包括的性教育の推進―です。

現場の支援者の方や運動を進めている人たちからは異口同音に教育の重要性が語られます。小さい頃から、恥ずかしさが勝ってしまう前から、科学的に、人権の視点で性についてオープンに学ぶことが大切です。

韓国でフェミニズムの運動を支える力がいまや十代、二十代になっているのは、早くからの包括的性教育の影響だと言われています。だからこそ、地方自治体でできることもたくさんあると感じています。

この4年間、北区の取り組みは、一歩ずつではありますが、前進していることを実感しています。以下、その一部をご紹介させて頂きます。

包括的性教育については、学校において人権教育と位置づけ、東京都教育委員会が改定した「性教育の手引き」にもとづき、避妊などを中学校で教える内容について、産婦人科の外部講師を活用した性教育のモデル授業を、教育委員会が各学校にも声をかけ、毎年、手をあげて実施校を増やしています。

生徒さんからは、「今まで自分が知っていたことが全部違っていたことがわかりました」「困っている友達にも伝えていきたい」などの感想も寄せられています。実際に取り組んだ学校の校長先生からも、教育現場で接する子ども達の実態から必要な学びである、子ども達からの評価も高いと教えて頂きました。全ての中学校でも速やかに実施できるよう、東京都へも働きかけを進めていきたいと思います。

また、学校でおこる性的な嫌がらせ(からかい、いじり、スカートめくり、カンチョーなど、悪ふざけとして見過ごされてきたことも、人権侵害であり性暴力)、スクールセクハラや痴漢についても、子どもの時からの被害が多いとの現状から、啓発、相談、予防についての取り組みを求めました。北区は、関係機関と連携し、いのちの安全教育を通して取り組むと答えました。

さらに、デートDV防止の取り組みでは、多様性社会推進課がリーフレットを作成し、区立と私立の中学校・高校に配布し、相談機関も含めて紹介しています。

保育園や幼稚園に通う幼児期の子ども達へも、下着やおむつの着脱などの日常の保育活動に際し、子どものプライバシーに十分配慮するとともに、プライベートゾーンを含め、子どもたちが自分の体を大切にするという意識が身に着けられるように指導をすすめ、保育士などへの研修が行われています。

今後は保護者の方々も共に学べるような場をつくっていくことも大切だと感じています。

東京23区は、全体にそうだと思いますが、北区も男女共同参画に関わるセクションの職員さんは、非常勤の方も含めて強い関心と責任感をもって、日々、最先端で勉強されています。講座などのイベントもとても良いものが多く、私もそのことへの強い敬意をもって質問を重ねてきました。

一方、保育園や学校で包括的性教育をすすめるにあたり、議会質問で心が痛むのは、それを実践する現場が、コロナ禍でますます、大変な状況になっていることです。

保育士や教員などの専門職がもっと豊かに配置され、ゆとりをもって子ども達に接する環境や、カリキュラム自体に包括的性教育が十分に行える時間の保障が必要ではないかと思います。保育士や教員の配置基準の改善、学習指導要領そのものの改善が、どうしても必要です。

今年度の新規事業

2022年度の北区の取り組みで、前進した事業を紹介します。

1つは、困難を抱える女性への相談、支援の拡充です。民間のNPO法人に委託し、LINE相談の実施やアウトリーチ支援、必要な際はシェルターの確保、支援員の養成講座の実施など、北区と民間の連携により、女性によりそった相談、支援体制をすすめていくことです。

党区議団もくりかえし質問し、予算組み替え動議などでも提案してきたもので、実現できて本当に良かったと思います。現在、国会でも全会一致で女性支援の新法が制定される見通しです。今後、予算の拡充も含め、自治体でのきめ細かな取り組みがいっそう進むようにしたいと思います。

2つめに、生理用品のインフラ整備について、区の公共施設に民間企業と連携し、設置をすすめることや、区立中学校でのモデル設置がはじまりました。教育委員会は検証しながら、全中学校、小学校へと配置を進める予定と答弁しています。

党区議団は、生理用品の配置が生理について子ども達がオープンに学ぶ機会とし、リプロダクティブ・ヘルス・ライツの観点から、生理の尊厳としての学びを深めてゆけるよう重ねて要望しました。

党区議団の1期目のせいの恵子議員も、この間、ジェンダー平等や包括的性教育の推進を議会で取り上げてきました。先日、本会議に傍聴に来られた住民の方が、「何年かぶりに、本会議場にきたが、生理のことやプライベートゾーンのこと、性の悩みなど、日常に抱えている身体や心の問題が、議場でこんなに語られているのかと、とても驚き、隔世の感がした」と語ってくれました。

包括的性教育は、人権を尊重し、対等な人間関係をつくり、主体的に人生をいきる主権者としての根幹を保障するものです。それがゆきわたる社会は、より民主的で平和で豊かな社会であると思います。(山崎たい子)

区議団控室で、生理の貧困解消をめざす団体「みんなの生理」のみなさんと懇談(2021年4月)
議会と自治体20226

  

 

これ以前の記事を見る